海洋開発って何?

 人類は有史以来、魚介類等の海の恵みを利用することで豊かな暮らしを実現してきました。技術が進歩するにつれて、海を利用する形は、水産資源の利用から海上輸送や干拓、埋め立て等へと広がっていき、そのスケールも大きくなってきました。海洋開発は、これら在来型の海洋利用以外の新しい分野での海洋の有効利用を指しています。技術の進歩とともに分野は拡大し、海洋石油・天然ガス開発、海洋再生可能エネルギー開発、海底鉱物資源開発、海洋空間利用など多岐にわたっています。

海洋石油・天然ガス

 世界的な人口の増加、経済活動の発展に伴いエネルギー需要は増加の一途を辿っており、特に海洋から産出される石油・天然ガスの占める割合が年々増加しています。海洋石油・天然ガス開発では海底を掘削する特殊な船や、海上で石油やガスを生産する特殊な設備等の建設や操業が必要になるため多額の投資が求められ、世界全体で30兆円を超える巨大なマーケットが形成されています。また、メタンハイドレートの採掘など将来を担う新たなエネルギーの活用も期待されている産業です。

主なプレイヤーと役割

 海洋石油・天然ガスの開発プロジェクトは多種多様な業種・企業同士による互いの連携が必要不可欠です。ここでは主なプレイヤーである5つの業種の役割についてご紹介します。

開発事業者 全体総括、開発権益保持者

掘削会社 試掘・探掘、生産井の掘削

エンジニアリング会社 海洋構造物の概念設計

輸送会社 輸送等の後方支援

造船会社 海洋構造物・支援船の建造等

機器メーカー 海洋構造物・支援船等に搭載する機器の製造

※当図内の業種分類は日本財団オーシャンイノベーションコンソーシアム会員企業のみの記載となっています。

石油・天然ガス開発の流れ

  • 計画

     石油や天然ガスを発見し生産を開始するまでには、長い期間を必要とします。開発工程は基本的に陸上と同じであり、鉱区を取得した後の探鉱、試掘、開発、生産、輸送といった流れを計画していきます。

  • 調査

     鉱区を取得すると、物理調査船を利用して取得した鉱区内の物理探査等の調査が行われます。探鉱で有望と判断された場合、掘削設備を用いて海底下に坑井を掘り、油・ガス層の存在及びその広がりについて調査が行われます。

  • 掘削

     試掘して油・ガス層の存在が確認され、事業採算性に合うと判断された場合、掘削設備を用いて生産用の坑井が設置されます。生産用の坑井の設置と並行して生産設備の設計・建設が行われます。

  • 生産・貯蔵

     海底から生産される油層流体は、通常ガスや水その他の不純物を含んでいるため、生産設備に搭載された装置で、原油、ガス、随伴水等に分離します。分離された原油は生産設備の貯油タンクに貯蔵されます。

  • 輸送

     生産設備の貯油タンクに貯蔵された原油は、定期的に配船される輸送タンカーに積み出され輸送されます。

海洋再生可能エネルギー
(洋上風力発電)

 洋上では陸上と比べて安定した風力が得られること、風車の大型化が容易であり、より大きな電力が得られることから、年々、洋上に建設される風力発電設備が増加しています。日本でも洋上風力に対する期待が高まっており、洋上風力発電設備容量は2030年には2018年の約150倍にもなる見通しとなっています。

主なプレイヤーと役割

 洋上風力発電の開発プロジェクトでは、より専門的な施工工程を必要とするために業種も細分化され、より綿密なプロジェクト管理が要求されます。

発電事業者 全体総括、開発権益保持者

エンジニアリング会社 風車の概念設計・施工管理

風車メーカー 風車の製造

基礎構造EPC 基礎構造物の設計・調達・建設

海底ケーブル敷設工事 海底にケーブルを敷設

変電設備EPC 変電設備の調達・建設

資材・人員輸送、アクセス船の運航等 運搬支援

※当図内の業種分類は日本財団オーシャンイノベーションコンソーシアム会員企業のみの記載となっています。

※EPC:Engineering, Procurement, Constructionの略。設計(Engineering)、調達(Procurement)、建設(Construction)を含む、プロジェクトの建設工事請負契約の意

海洋再生可能エネルギー(洋上風力発電)開発の流れ

  • 計画

     開発工程は基本的に陸上と同じであり、適地選定、開発、発電・送電、撤去といった流れを計画していきます。

  • 調査

     経済性が成立する洋上風力発電を設計するために、候補海域の風況や波浪、海・潮流、海底地形・地質等を調査し、風車を支える支持構造物の設計や建設工法の検討に利用します。

  • 風車の製造

     調査によって得られた自然条件等から建設する洋上風力発電の基本設計を行い、環境影響評価と合わせて、経済性の成否を判断します。経済性が成立すると判断された場合、建設方法を含め、詳細な設計を行い、建設工事に取り組みます。

  • 風車の施工

     まず支持構造物を据え付ける基礎工事、風車を組み立てる風車設置工事を行います。自動昇降台船や風車設置船など、特殊な船の活躍が不可欠です。

  • ケーブルの敷設

     ケーブルの設置を行い、洋上風車で発電した電力を陸上に送電できるようにします。

  • オペレーション&
    メンテナンス

     設置・運転が開始された洋上風車を定期的にメンテナンスします。

メタンハイドレート・
海底鉱物資源

 日本の周辺の海には、メタンハイドレート、海底熱水鉱床、マンガン団塊やコバルトリッチクラスト、レアアース泥等の海底鉱物資源が、水深が数百mから数千mまでの海底に多く賦存すると見込まれています。広大な海域において、いかに効率よく資源を見つけ取得するかが課題となっており、これらを解決するための技術開発が進められています。

メタンハイドレート

 メタンハイドレートは、メタンと水が低温・高圧の状態で結晶化した氷状の物質で、火をつけると燃えるため「燃える氷」とも呼ばれています。メタンと水だけで構成されているため、火を近づけると水に囲まれていたメタンが燃え、水だけが残ります。さらにその多くが水深500m以深の海底から数百m程度までの地層に広く存在し、日本では、「東部南海トラフ」と言われるエリアに濃集している場所があることが知られています。

海底鉱物資源

 広大な海域においていかに効率よく海底鉱物資源を見つけるか。現在、海底鉱物資源の情報などを効率よく取得するための技術開発がSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)で進められています。さらに、海底から鉱石を掘り出し船に引き上げる技術(採鉱)、鉱石から不要な岩石などを取り除いて有用な鉱物だけにする技術(選鉱)、さらに金属分を取り出す技術(製錬)など多くの技術が必要になります。現在、石油天然ガス・金属鉱物資源機構でその必要となる技術開発が行われています。

  • 海底熱水鉱床

     海底熱水鉱床は、地層深部まで浸透した海水がマグマ等によって熱せられて海底面から噴出した熱水に含まれる金属成分が沈殿してできたものです。煙突状になっていることが多く、銅、鉛、亜鉛、金、銀等の金属が含まれています。水深500~3000mの海底火山の活動が活発な海域で発見されており、日本周辺では沖縄トラフや伊豆・小笠原海域で徴候が数多く確認されています。

    写真) 海底熱水鉱床
    出典:JOGMEC

  • コバルトリッチクラスト

     コバルトリッチクラストは、太平洋の水深1000~2500mの海底に点在する海山の中腹斜面にある岩石を覆うような形で分布しています。主成分は鉄、マンガンで、マンガン団塊と類似していますが、名前の由来となっている白金を含む点が特徴です。ハワイ諸島や日本の南鳥島で発見されており、世界に先駆けて日本が探査活動に取り組んでいます。

    写真) コバルトリッチクラスト
    出典:JOGMEC

  • マンガン団塊

     直径2~15cm程度の大きさで、水深4000~6000mの海底に石ころを敷き詰めたように分布する、球状または楕円状の塊です。マンガン、ニッケル、銅、コバルト等30種類以上の金属やレアアースを含んでおり、核を中心に100万年で1mm程度の速度で成長します。海底鉱物資源のなかで最も古くから注目されており、ハワイ沖やインド洋等で発見されています。

    写真) マンガン団塊
    出典:JOGMEC

  • レアアース泥

     レアアースを豊富に含んだ暗褐色の泥質堆積物で、第4の海底鉱物資源とも言われています。2013年に東京大学と海洋研究開発機構が南鳥島周辺の水深5000~6000mの海域で発見しました。太平洋に広く分布しているため、資源量が膨大と見られています。レアアースはハイテク機器の製造に不可欠なため、商業生産できれば、日本のレアアースの安定供給に大きく貢献すると期待されています。

    写真) レアアース泥 出典:JOGMEC